「百瀬の独りクリスマス」
光本がつぶやいた。
「そういう言い方するな!」
透は半年前から美緒とつきあっている。
しかし、美緒の家は毎年家族でクリスマス・イブを過ごすことに
なっているのだ。
何でも母親がクリスチャンだという。
「オレんとこ来るか?」
「絶対行かねえ」
光本のカノジョいない暦は年齢と同じだ。こいつと一緒にイブを
過ごすなんて、何かが感染りそうでイヤだ。
「ま、カノジョを責めるな」
「分かってるって。ただ……」
内心は、自分より家族を優先するのか、と問いただしたい気持ち
がこみ上げてくる。そんな自分は実に心の狭いヤツのような気がし
て、また嫌気が差す。
「オレんとこ来てもいいんだぞ」
「だから行かねえっつーの!!」
光本は悪いヤツではないのだが……。
透は家に戻った。
「ま……こっちだって、たまには家族サービスもいいさ」
が、人気がない。擦り寄ってくる飼い猫のジャンを無視して台所
に行く。書置きが置いてある。透はそれを手に取った。
「何ぃ、夫婦でおでかけぇ?! いい年してアイツら……」
部屋のベッドで透は横になった。 >>>
服も着替えずに……。
「スッキリしていいや」
そのまま少しウトウトとした。
ピンポーン。
透は飛び起きた。
「誰だろう……まさか、な。光本のヤツかな……」
チャイムは鳴り続け、透はメンドくさそうに階段を降り、玄関へ
向かった。またジャンが擦り寄ってくる。
覗き穴からチャイムを鳴らす相手を見る。
「!!」
美緒がそこに立っていた。慌ててドアを開ける透。
「こんばんわ」
「美緒……」
「いい?」
透は思わず美緒を抱きしめた。
「透クン……」
「ゴメン、つい……」
透は名残惜しそうに美緒を離す。
顔がついほころんでしまう。
「と、とにかく上がれよ」
「よろしくお願いしますな」
美緒の後ろには数名の人影が。>>>
「どえっ!!」
「ゴメン、こっちも断れなくて……迷惑?」
美緒の家族だった……。
「そ、そんなことねえ……いやありません。さあ……」
たまにはにぎやかなのもいいだろう。美緒だけの方がそりゃうれし
いけど、とりあえず美緒さえいてくれるなら。
だから、
メリー・クリスマス♪
−了−
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